東京高等裁判所 昭和30年(ネ)959号 判決
当審における被控訴本人の尋問の結果(一部)とこれによつて成立を認める甲第一号証によれば、右賃貸借には、一カ月でも賃料を延滞したときは直ちに賃貸借の終了を来す趣旨の被控訴人主張の如き特約が附加合意されていた事実を認むべく、当審証人島村清子の証言中この認定に反する趣旨の部分は採用できない。そして、控訴人が昭和二八年六月末までに同年七月分の賃料の支払をしなかつたこと自体は控訴人の認めるところであるけれども、右特約は借家人にとつて相当苛酷なものであるに加え、右島村証人の証言(一部)とこれによつて成立を認める乙第三、四号証の各一、二を綜合すれば、本件賃貸借においては賃料前払いの約定にはなつていても賃料がこの約定どおり前払いされたのは単に当初の数カ月だけのことであつて、昭和二七年二月分以降ここで問題の昭和二八年七月分の前月分たる六月分に至るまで例外なく翌月に入つて支払われたのであり、その間十日以上後れたことも五、六回に及んだのにすべて異議なく領収され来つたもので、かように翌月払いが慣例となつていたのに、昭和二八年七月分については、控訴人において七月の月始め(一日から三日頃までの間)に持参提供したのに拘らず被控訴人はその受領を拒絶したことが認められるのであつて(右七月分の賃料についての控訴人の弁済の提供及び被控訴人の受領の拒絶を否定する被控訴本人の当審における供述部分は措信できない。)かような事情を合せ考えると、控訴人が昭和二八年六月分の賃料を同月末日までに支払わなかつたこと自体は未だ直ちに右特約にいう「賃料を一カ月分でも延滞したとき」というにはあたらないと解するのが信義則の要請するところというべきであつて、被控訴人の(一)の主張は結局採用することができない。
(薄根 奥野 古原)